禁煙

 

呼吸器の病気

呼吸不全

急性呼吸不全・ARDS

急性呼吸不全とは

呼吸は空気中の酸素を吸気時に血液に取り込み、体内で産生された二酸化炭素を血液から呼気にて排出。酸素や栄養を運ぶ動脈中の血液の酸素分圧は100mmHg程度。酸素のほとんどは赤血球細胞の中にあるヘモグロビンと結合。酸素分圧が60mmHg未満になるとさまざまな臓器に悪影響を及ぼす。何らかの原因によって動脈血中の酸素分圧が60mmHg未満になる病態を呼吸不全という。

呼吸不全のうち、急速に発症した場合は急性呼吸不全。呼吸不全にはⅠ型呼吸不全(血中の二酸化炭素分圧が正常か低下)とⅡ型呼吸不全(血中二酸化炭素分圧が増加)がある。二酸化炭素の排出は肺胞の出入りする換気量(空気の量)できまるので、体に二酸化炭素が溜まるⅡ型呼吸不全は、様々な要因で換気量の低下が考えられる。

原因疾患は、

肺炎やARDS、急性肺血栓塞栓症、自然気胸などが代表的。また慢性閉塞性肺疾患(COPD)や間質性肺炎が感染や心不全などの合併症併発にて急性増悪の可能性。

急性呼吸不全の治療

酸素吸入や人工呼吸など呼吸を補助する治療、呼吸不全を起こした元疾患の治療。酸素は生命の維持に不可欠なので酸素投与は必須となる。 ただし、Ⅱ型呼吸不全の患者に大量の酸素投与を行うと、呼吸が止まることがあるので、注意が必要。

ARDSとはどんな病気?

ARDSは急性呼吸促迫症候群(Acte Resprira-tory Distress Syndrome)は様々な原因によって生じる症候群。

2021年の定義では、①1週間以内の経過で急に発症。②低酸素血症③胸部X線やCTスキャンで両肺に異常な影④心不全が原因ではない。

誘因の基礎疾患は二つ。①肺に直接ダメージを与えるもの②それ以外。

①は肺炎や胃内容物の誤嚥の頻度が高い 

②は敗血症(血液中に細菌や細菌由来の毒素などが入り、様々な臓器に損傷を与える。)が代表的。

ARDSを起こした肺では、基礎疾患に伴って好中球(白血球の一種)が活性し活性酸素やタンパク質分解酵素の放出で細胞や組織を損傷と考えられる。肺胞や毛細血管の細胞がダメージを受けた結果、血液中の水分やタンパク質が滲み出て、肺胞にひどい浮腫を起こす。

ARDSの治療法は2つ

①呼吸管理を中心とする全身管理 

②薬物療法

①低酸素血症の改善に、気管に入る空気に圧力をかけるため気管チューブやマスクによる人工呼吸管理を行う。抗菌薬治療や全身管理を行う目的での水分や栄養の管理を行う。

②原因が敗血症や肺炎などの細菌感染症には薬物療法ですが、ARDS患者さんの生存率改善につながる薬剤は知られていない現状だそうです。

どんな症状?

低酸素血症による息切れ(呼吸困難感)が主な症状。軽症の場合は坂道や階段でのみ息切れ(労作時呼吸困難)を自覚する。重症の場合は身の回りのことをするだけで息切れを感じて、日常生活が困難になる。その他の症状は原因疾患による。高二酸化炭素血症が進行すると、頭痛や血圧上昇、羽ばたき振戦、意識低下などが見られるが、進行がゆっくりの場合は症状に乏しいこともある。

治療法は?

慢性呼吸不全の治療は主に3つ。

  1. 在宅酸素療法(HOT)
    1. 大気中の酸素濃度は約20%。この濃度では血液中の酸素を高めることができない患者さん(慢性呼吸不全)は、濃い酸素を吸入することで血中酸素分圧を保持できる在宅酸素療法
    2. HOTでは自宅に設置した酸素供給器(酸素濃縮器や液体酸素タンク)からカニューラ(細長いチューブ)を通し酸素を吸入する。
    3. 酸素濃縮器は空気中の酸素と窒素を分離し、酸素のみを患者さんへ供給する。液体酸素も使用可能だが、主に酸素濃縮器を使用。
    4. 携帯用酸素ボンベを用いると外出も可能。最近では携帯型酸素濃縮器に充電すると長時間外出可能。
    5. 現在、適応基準を満たせば、在宅酸素療法は健康保険が使える。
  2. 換気補助療法
    1. 動脈血中の酸素が少ない場合は酸素吸入で対応可能だが、二酸化炭素増加時は酸素療法のみでは不十分。機械の力を借りて呼吸の補助を行う必要が生じる。最近は非侵襲的陽圧換気(NPPV)の特殊マスクを装着して行う人工呼吸の方法が進歩している。鼻や顔に密着したマスクから、設定した圧力で肺の中に空気を送り込む方法。これにより、二酸化炭素が増えている慢性呼吸不全の患者さんに対して気管に穴を開けず在宅で対応できるようになってきた。
  3. 呼吸リハビリテーション
    1. 日常生活の指導、運動療法、栄養指導、肺理学療法などを含めた多職種による包括的呼吸リハビリテーションが行われる。これによって慢性呼吸不全患者の生活の質(QOL)や日常活動度(ADL)を改善させることが可能と考えられる。
    2. 呼吸リハビリテーションの基本構築(慢性閉塞性肺疾患(COPD)診断と治療のためのガイドライン)
      1. 患者・家族の評価(医学的・社会的)→
      2. 社会活動・運動療法・肺理学療法・酸素療法・栄養指導・薬物療法・患者教育(特に禁煙と日常生活指導)・精神的サポート→
      3. 患者の変化 運動耐容能↑・正しい機器類の使用↑・コンプライアンス↑・病態の理解↑→状態の変化 QOL↑・ADL↑・病態の安定↑・入院回数↓・再入院回数↓・不安↓

その他

気管支拡張症

気管支は、鼻や口と肺をつなぐ管。気管から木の枝のように分岐して、肺の中に空気を運ぶ通路の役割。

気管支拡張は、先天的や幼少児期の肺炎、繰り返す感染などの原因で、気管支壁が壊れたり弱くなることで気管支が広がってしまった状態。

気管支拡張の経過(派生する問題)

気管支の壊れた部位に細菌やカビが増殖して炎症し気管支の壊れによる気管支拡張が進行。増殖した細菌やカビはその他の肺の中にも広がり、肺炎を起こして、肺の壊れがさらに進行。気管支拡張の部分には、炎症に伴って血管が増えるために喀血を発症することもある。気管支と肺の壊れが進行し次第に肺の機能が低下する。

潰れた気管支→細菌やカビの増殖→炎症→拡張の進行→細菌やカビが肺へ→肺炎→進行→気管支拡張部分には、炎症に伴い血管が増す→喀血発症の場合あり→気管支と肺の壊れ進行で肺機能が低下。

症状は、痰や咳、肺炎。血痰や喀血。時に大量の喀血もある。

診断は、X線やCT

検査は、感染が疑われる場合は病原菌を同定する痰の培養検査。喀血が多い場合は血管の増加観察のため血管造影。

その他

職業性肺疾患

職業性肺疾患とは、仕事の作業中に有害な粉塵、アレルゲン、化学物質、環境汚染物質などを吸入することで生じる呼吸器疾患

じん肺と職業性喘息は周知の事実。じん肺の罹患率は暴露対策の普及や石綿の全面使用禁止などに伴い昭和50年をピークに減少傾向にある。

主なじん肺の原因物質

遊離ケイ酸:シリカ

  シリカは珪肺

ケイ酸化合物:アスベスト・タルク・珪藻土・セメント

  アスベストは石綿肺・タルクは滑石肺・珪藻土は珪藻土肺

アルミニウム:Al

鉄化合物:酸化鉄とケイ酸

炭素:黒煙・カーボンブラック・石炭粉じんとケイ酸

珪肺症はシリカの粉塵吸入が原因で生じ、肺の上の方に大小の結節や瘢痕性陰性が生じる。石綿関連疾患は石綿吸入が原因で生じ、石綿肺、びまん性胸膜肥厚、良性石綿胸水、悪性胸膜中皮腫が含まれる。

職業喘息は高分子量物質は低分子量物質に感作されて発症する喘息と刺激物質によって誘発される喘息の2つに大別される。

1次予防としては、原因物質の暴露防止が重要。二字予防として早期発見、早期対策が重要。治療法は疾患ごとで異なる。

その他

原発性肺胞低換気症候群

概要

肺・胸郭・神経・筋肉系に明らかな異常が認められないにも関わらず、血液中の酸素が低下し、二酸化炭素が多くなる病気

疫学

血液中の二酸化炭素が高く、酸素が低下しているために、自宅での療養治療が必要な患者数は全国で5000名程度と推定されている。

発症のメカニズム

呼吸は脳(幹)で調節し肺で行う。また、肺(胸郭)は横隔膜や筋肉の働きで膨らみ縮む。呼吸により、空気中の酸素を取り入れて、体の中で産生された二酸化炭素を排出し、ガス交換(肺胞換気)を行う。通常、呼吸に関する肺・胸郭・神経・筋肉系に何らかの異常を認めると肺胞換気が低下し、睡眠中により悪化する。原発性肺胞低換気症候群では、はい・胸郭・神経・筋肉系に明らかな異常がないにもかかわらず、肺胞換気が低下しており、原因としては呼吸の化学(代謝)調節系の異常(不全)が関わっていると推定されている。

症状

不眠や起床時の頭痛、日中の眠気などが見られます。病状が進行すると、呼吸困難や全身のむくみなども認められす

診断

 血液中の酸素は低下・二酸化炭素は多いが、肺には異常がないため、肺活量などの呼吸機能検査値は正常。また、神経や筋肉にも異常はみられない。ただし、意識的に深呼吸を繰り返すと、血液中の二酸化炭素を下げることができる。夜間睡眠中の検査(ポリソムノグラフィー)にて、夜間睡眠中に主に換気の低下や血中酸素の低下を認めるものをフェノタイプA。夜間睡眠中に主に無呼吸を認めるものをフェノタイプBとする。

治療

現時点での根本的治療法はない。人工呼吸器を用い換気補助にて、血液中の酸素分圧上昇、二酸化炭素分圧低下の可能性。最近では、鼻マスクや鼻口マスクを用いた人工呼吸療法:非侵襲的陽圧換気療法が主流で多くは睡眠中のみに機器を使用。人工呼吸療法が開始されたら、自己判断で中断できない。

その他

過換気症候群

呼吸が早く、呼吸困難感を訴える患者さんで、自覚症状や筋肉の痙攣、硬直などの所見があればこの病気を疑う。動脈血液ガスの検査では、炭酸ガス濃度が低く、アルカリ性になりやすい。

治療は意識的に呼吸を遅くするあるいは呼吸を止めることで症状は改善する。患者さんは不安が強くなかなか呼吸を遅くすることができないので、まず、患者さんをできるだ安心させゆっくり呼吸するように指示する。紙袋を口に息を再度吸わせることで、血液中の炭酸ガス濃度を上昇させる方法(ペーパーパック法)があるが、これは血液中の酸素濃度が低くなりすぎたり、炭酸ガス濃度が過度に上昇したりする可能性がある。

概要

精神的不安や極度の緊張などにより過呼吸の状態となり、血液が正常よりもアルカリ性となることで症状が出る状態。神経質な人、不安症な傾向のある人、緊張しやすい人などで起きやすいとされます。

 

何らかの原因、たとえばパニック障害や極度の不安、緊張などで過呼吸状態(息を何回も激しく吸ったり吐いたりする状態)になると、血液中の炭酸ガス濃度が低くなり、呼吸を司る神経(呼吸中枢)により呼吸が抑制され、患者さんは息苦しさ(呼吸困難)を感じるので、余計何度も呼吸をしようとする。

血液がアルカリ性に傾くと血管の収縮が起き、手足の痺れや筋肉の痙攣や収縮も起きる。患者さんは、この症状により不安を感じて呼吸状態が悪くなり、その結果症状が悪化する、悪循環状態になる。

 

その他

睡眠時無呼吸症候群 Sleep Apnea Syndrome:SAS

概要:睡眠中に繰り返す無呼吸から、さまざまな合併症を起こす病気

 

疫学:成人男性の約3〜7%、女性の約2〜5%。男性では40〜50歳代が半数以上。女性は閉経後に増歌。

 

発症のメカニズム:上気道(空気の通り道)狭窄が原因。原因は頸部(首周り)の脂肪沈着など、肥満はSASと関係あり。また、扁桃肥大、舌肥大、鼻の病気(鼻炎・鼻中隔弯曲)、顎の後退、顎が小さいこともSASの原因。

 

症状:いびき、夜間頻尿、日中の眠気や起床時の頭痛などを。日中の眠気は作業効率低下、居眠り運転、労働災害の原因となる。

 

診断:問診などでSASの疑い時は、簡易検査(携帯型装置)や睡眠ポリグラフ検査(PSG)にて睡眠中の呼吸状態を評価。PSGにて、1時間あたりの無呼吸と低呼吸を合わせた回数である無呼吸低呼吸指数(AHI)が5以上であり、かつ上記の症状を伴う際にSASと診断。

重症度は、AHI5~15を軽度 15〜30を中等症 30以上を重症。

 

治療:AHIが20以上で日中の眠気などを認めるSASでは、経鼻的持続陽圧呼吸療法(Continuous positive airway pressure : CPAP):マスクを介して持続的に空気を送り、狭い軌道を広げる治療法。また、マウスピース(下顎を前方に移動させる口腔内装置)を使用した治療。小児のSASの原因の多くはアデノイド・口蓋扁桃肥大。その際は摘出術が有効。

 

生活上の注意:肥満者は減量にて程度の軽減が見込めるため、食生活や運動などの生活週間の改善を心がける。アルコールは睡眠の質を悪化させるため、晩酌を控える。

 

予後:成人SASは高血圧、脳卒中、心筋梗塞等の危険性が約3〜4倍高くなる。特に、重症(AHI30以上)は心血管系疾患発症率が約5倍。しかし、CPAP治療にて死亡率は健常人と同等まで低下。

その他 肺ランゲルハンス細胞ヒスチオサイトーシス

 

概要:ランゲルハンス細胞は組織球(結合組織や臓器などに存在するマクロファージ)の一種。

肺ランゲルハンス細胞組織球症:肺LCHは、体内の異物を貪食し、異物の種類をリンパ球に連絡する作用がある。このランゲルハンス細胞が肺や気管支壁で増殖し、組織の破壊や繊維化、嚢胞形成を起こす病気。

 

疫学:肺LCHは20〜40歳を中心とした若年者に見られ、男性にやや多く、90%以上は喫煙者

 

発症のメカニズム:未だ解明されていないが、肺LCHは喫煙との関連が示唆されている。

ランゲルハンス細胞は気管支・細気管支などの表面(上皮)に存在し、主に外部から侵入してくる抗原(喫煙者の場合はタバコの煙)から体を守る役割を担っている。

 

症状:咳・呼吸困難・気胸による胸痛などを認めるが、発熱、寝汗、体重減少、だるさ、食欲不振などの一般的な症状を自覚することもある。また、無症状で健診などの胸部異常陰影として発見されることもある。

 

診断:気胸などの症状や胸部CT検査で上肺野優位の嚢胞性・結節性陰影を認めた場合には、本疾患を疑う。ランゲルハンス組織球細胞の増殖を病理学的に証明するためには、生検(小さな組織の一部をとること)を行う。組織を採取する必要がある。一般的に気管支鏡や胸腔鏡での肺の生検を行い診断する。

 

その他

肺移植

肺移植とは、患者の肺を取り出し、その代わりに提供者の新しい肺を移植する治療法。条件は他に有効な治療法がなく、生命の危険が迫り(2年生存率が50%以下)、肺移植により回復が見込まれる場合に行う。脳死肺移植と生体肺葉移植の2種類がある。手術の種類は両肺移植と片肺移植がある。

肺移植は我が国では1998年から実施され、

 

2023年1/1~9/30現在の臓器提供件数:脳死下96件、心停止後14件、合計110件

肺単独移植件数は86件

2015年末時点で累計数は464例。症例数の多い適応疾患は、リンパ脈菅筋腫症、突発性間質性肺炎、肺高血圧症、気管支拡張症、造血幹細胞移植後肺障害。

肺移植を受けた患者の生存率は、脳死肺移植は、5年生存率、72.1%・10年生存率58.8%。生体肺移植の場合は各々71.7%、65.9%。

 

 

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